「秋の空」のイメージは,すがすがしい青空ですが,10月に入っても先週までは週末毎に雨降りでした。これは,秋の季節に低気圧と高気圧が交互に通過し,およそ1週間周期で雨が降ったり晴れたりを繰り返すためです。
大陸からの移動性高気圧が日本付近を通過した時には秋晴れの気持ちの良い天気になりますが,偏西風によって移動してしまい,気圧が下がって雨模様となるわけです。その後,帯状高気圧を形成すると安定した天気が続きます。
このように,天気が変わりやすいのもこの時季の特徴です。この秋の空模様を女性の移り気な心に例えて,「女心と秋の空」ということわざがあります。
しかし,もともとは「男心と秋の空」で,知らなかったのですが,今も使われているそうです。
このことわざができたのは江戸時代。当時は結婚している女性が旦那以外の男性に心を許すことは禁じられていましたが,男性の場合は浮気には甘く,移り気なのは男性だったのです。小林一茶も「はづかしや おれが心と 秋の空」という俳句を詠んでいて,変わりやすい自分の心を恥ずかしいと反省していますが,この時代に「男心と秋の空」という風潮が根づいていたことが分かります。
この「男心」が「女心」と変わっていったのは明治時代です。
尾崎紅葉の小説の中で,「欧羅巴の諺に女心と冬日和といえり」という一節があります。これは,イギリスのことわざ「女心と冬の風」のことで,「秋の空」ではなく「冬の風」ですが,女性の変わりやすい心情を示した格言です。この頃から変化の兆しがみえてきます。
大正時代を迎え,大正デモクラシーで女性の地位が向上すると,恋愛の価値観も変わり,女性が素直に意思表示できるようになっていきました。それに伴い,「女心」が使われ始め,昭和の時代に定着していくことになったようです。
「男心と秋の空」は異性への心変わりを言うのに対して「女心と秋の空」は,愛情に限らず,日常的な物事に対して移り気な感情を表しているので,少しニュアンスが違いますが,男女とも人の気持ちは移ろいやすく脆いものですね。