前回は,特措法の改正について話しましたが,コロナ感染拡大防止のための法改正にはあと2つあって,感染症法と検疫法です。
検疫法の改正はあまりニュースにはなっていません。海外からの入国者に対する水際対策で,改正によって法的根拠をもつことで,自宅待機などの協力要請を行い,要請に応じない場合,施設に「停留」させる措置などができるようにしました。これに従わない場合は,「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」を科すという規定が準用されます。
感染症法の改正案でも,当初,患者が正当な理由がなく入院を拒否したり,入院先から逃げ出した場合,罰則として「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」を科すことになっていました。
また,患者が感染経路の追跡調査を拒んだり,虚偽の回答をしたりした場合にも「50万円以下の罰金」を規定していました。
懲役や罰金を科すことは,刑事罰で,犯罪者扱いとなってしまいます。そもそも入院拒否することで感染が広がっているという科学的根拠もなく,その事例も調査していないことから,疑問が相次ぎ,与野党の協議の上,刑事罰から行政罰の「過料」(この場合「科料」と区別するために「あやまちりょう」という場合があります)に変更して,金額も引き下げられました。
しかし,例え行政罰であっても,罰則を伴う改正は差別や偏見を助長し,感染症法の理念に反すると危惧する意見がたくさんあります。日本では,かつてハンセン病が恐ろしい伝染病と考えられていて,国は患者を強制的に診療所に隔離し一生出られない,患者が出ることが恥と誤った認識を植え付けてきました。そのため,患者やその家族に対する差別や偏見が横行し,心に大きな傷を負ったのです。
その反省のうえに成立した感染症法の前文には,「我が国においては,過去にハンセン病,後天性免疫不全症候群(エイズ)等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め,これを教訓として今後に生かすことが必要である。」とあります。
入院を拒む理由に,偏見から生まれる周囲からの誹謗・中傷や差別があるのかもしれません。それらによって,患者の人権侵害があってはならないことを心に刻んでおく必要があります。